河原に落ちていた日記帳

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【読書備忘録】ASIOS『昭和・平成オカルト研究読本』(2019)

昭和・平成オカルト研究読本

昭和・平成オカルト研究読本

 

 すごい本が出ました。

 近代以降、非科学的な言説は「迷信」として退けられる一方で、社会に対して常に一定の影響を及ぼしてきた「オカルト」という存在。

 オカルトは戦後の70~80年代にかけて爆発的な流行を見せ、それが落ち着いたかのように見える現在でも、「スピリチュアル」や「ニセ科学」などの形で厳然たる存在感を放ち続けています。

 本書は昭和期から現在に至るまでのオカルト主要トピックを取り上げ、それらに客観的な検証を加えた400頁超の大著です。

〈内容紹介〉※版元ドットコムより引用
 数年ごとに起きるオカルトブーム。超能力や心霊、占い、予言、奇跡、UFO、UMA、さらには超古代文明など常識では説明のつかない出来事は人々を惹きつけてやまない。しかしながらブームが終われば、多くの出来事は次第に忘れ去られてゆく。本書はそういった過去のオカルトを懐かしむのではなく、徹底的に資料を集め、確実に裏付けを取ったもので構成されている。
 30年あまり続いた平成という時代が終わりを迎え、元号が「令和」へと変わった今、昭和と平成、約100年の間に起こったオカルトを深く考察していく。

 

 本書は「超常現象の懐疑的調査のための会」を標榜する研究団体、ASIOSによる最新著作となります。学術機関ではなくあくまで民間団体(サークルみたいなものでしょうか)ですが、オカルトに関する知見について一級的なメンバーが揃っており、にわかオカルトファンとして注目すべき団体だと思います。

 本書で振り返られるオカルトトピックはどのようなものか、まず目次を見て探ってみましょう。

第1章 後世に影響を与えたオカルトの源流

  • 人々の願望を飲み込み、様々な素材を取り込んだ『竹内文書』(長山靖生
  • 日猶(にちゆ)同祖論の誕生と系譜(藤野七穂
  • 「日本ピラミッド」説の誕生と系譜(藤野七穂
  • CBA事件を起こした宇宙友好協会(CBA)(羽仁礼)
  • 何度もよみがえっては人を騙し続けるM資金詐欺(隈元浩彦)

第2章 昭和・平成のオカルトブームを振り返る

  • 昭和・平成の代に現れたUMAたち(横山雅司)
  • 超古代文明と失われた大陸ブーム(藤野七穂
  • スプーン曲げブームと二人の重要人物(本城達也
  • 水子供養ブームを考える(ナカイサヤカ)
  • 日本のノストラダムスブームを振り返る(山津寿丸)
  • 心霊写真ブームと心霊写真本(本城達也
  • 盛り上がり、定着し、沈静化した昭和・平成のUFOブーム(羽仁礼)
  • なぜ六星占術の本は売れたのか?その理由と仕組みを考察する(本城達也

第3章 昭和・平成のオカルト事件

第4章 昭和・平成のオカルトを検証し、論じる

第5章 昭和・平成のオカルトを彩ったテレビ番組、漫画・雑誌、出版社、オカルト研究会、人物伝

  • 昭和・平成のオカルト番組
  • 昭和・平成のオカルトを彩った漫画
  • オカルトの本を多く出版する出版社
  • オカルトの本も出版している総合出版社
  • 昭和・平成のオカルト雑誌の歴史をたどる
  • オカルト研究団体
    ・心霊研究団体からオカルト現象全般を研究する団体まで
    ・UFOを扱った代表的な研究団体
  • 昭和・平成オカルト人物伝
酒井勝軍竹内巨麿楢崎皐月平野威馬雄/岡田光玉/黒沼健/佐治芳彦/古田武彦/中岡俊哉/五島勉氏/宜保愛子/齋藤守弘/横尾忠則氏/康芳夫氏/細木数子氏/佐藤有文/高坂和導/秋山眞人氏/江原啓之氏/[インタビュー]井村宏次さんの思い出―横山茂雄氏に聞く

 

 すごい、すごすぎる。

 オカルトに関する客観的な研究書というのは、探せば意外とあるものなのですが、ここまで広範に渡る話題を一冊に収めた本はなかなか無いのではないでしょうか。もうこの目次を見るだけでお腹いっぱいです。

 本書は複数人による論考集の形をとっているため、書き手によってそれぞれ色の異なる論述がなされています。

 例えば偽史担当の藤野七穂氏は、偽史に関する各テーマについての言説の推移を非常に緻密に考証されており、「偽史ウォッチャー」としての手腕を遺憾なく発揮されています。*1

 一方ASIOS代表の本城達也氏は、占いやスピリチュアル・超能力などに関する有名な話題を取り上げ、それを「懐疑派」としての立ち位置から「種明かし」を行うという、どちらかと言えばオカルトに対し批判的な考察が特徴的です。

 宗教ジャーナリストの藤倉善郎氏は、オウム事件ライフスペース事件、幸福の科学の「霊言」など、平成期に社会問題となった新宗教事件の顛末を簡潔に要約しており、こうした話題に興味のある層にも楽しめる内容となっています。

 ただ全体的なテイストとしては、世に蔓延るオカルトを斬るという「と学会的」とでも言うべき方向性が強く、オカルトの宗教学的・文化史的な考察とは少しずれていることは留意しておくべきでしょう。本書はあくまで、有名なオカルトネタの客観的な検証を行った本であり、宗教学の専門書ではないのです。

 各論考は(内容量の濃淡はあるものの)興味深い内容のものばかりですが、私としては第5章のオカルトデータ集にも注目したいところ。オカルト番組や雑誌、オカルト研究団体の総まとめなど、資料的にも面白い箇所ですが、個人的には「昭和・平成オカルト人物伝」がツボでした。

 これは往年のオカルトブームで活躍したライターから、現在活動中のスピリチュアリストまで、オカルトに関わる様々な人物の経歴を紹介したものです。カタカムナ楢崎皐月や、古史古伝ライターの佐治芳彦などの詳しい経歴が読めるのは、ここ最近では本書だけでしょう。特に佐治芳彦が既に亡くなっていたということは、本書で初めて知りました。

「オカルト話でよく名前を見るあの人、どういう経歴なのかな?」そんな疑問を持った人にはきっと、同じツボにハマることができるかと思います。

 

 個々の論考の内容については、是非とも実際に手に取って読んでみてほしいのですが、折角なので個人的な興味により、本書の中から一つの論考を紹介させていただきます。

◎廣田龍平「オカルトと民俗学―その困難な関係性」

 廣田氏はASIOSメンバーではありませんが、いわゆる「妖怪」という存在についての学術的な研究を積極的に行っている方です(参考リンク)。

 廣田氏はまず、世間一般的には民俗学がオカルトを研究する学問として認識されていることを指摘し、専門外の作家たちによる「民俗学っぽい」言説には「実証性も論理性も、先行研究の検討もない」「(このような言説の中では)民俗学とは、過去の宗教的対象と身近な怪異・妖怪を自由自在に結びつける道具でしかない〔p247〕」と批判します。

 しかしこうした「適当な学問」という民俗学のイメージを形作ったのは、当の民俗学者自身の影響も大きいことを指摘し、民俗学自体がオカルト研究と関わっていく経緯を柳田國男の時代から腑分けしていきます。そして民俗学がオカルト事象への取り組みを行いながらも、70年代以降のオカルトブームに学問として上手く対応できず、その間隙を縫うように「民俗学っぽい」言説が粗製乱造されていく経緯を掘り起こしています。

 そして今後の課題として、「民俗学とオカルトの通俗的な結びつきが生まれ、人口に膾炙していったプロセス」をフィクション作品における民俗学イメージの整理を通して明らかにしていくことと、世間に横行する「民俗学っぽい」言説をきっちり批判した上で、「専業や在野の民俗学者が、より魅力的かつ学術的な解釈・批評を発信」していく必要がある、と廣田氏は主張します。

 実を言いますと私もネット上などで見かける「民俗学っぽい」言説から民俗学そのものに興味を持ったクチなので、廣田氏の論考は私自身の関心にクリーンヒットすると同時に、身につまされる思いになってしまいました。

 一般的に民俗学と言えば、妖怪や都市伝説などを研究する学問だとイメージされがちですが、実際にそうしたオカルト事象を専門的に研究している民俗学者は、実は少数派です。極端な事例ですが私も「過去に民俗学を勉強していました」と自己紹介したところ、『ホツマツタヱ』や日ユ同祖論の話をしつこく切り出されて大いに閉口したことがあり、民俗学が世間でどういうイメージを持たれているのか図らずしも思い知らされる経験となりました。

 では民俗学とは何なのかと言うと、廣田氏の言葉を引用すれば「細分化した学問からこぼれ落ちる、人々の生活や思考、感性、その歴史をフィールドワークや文献調査に基づいて研究したもの〔p248〕」とのこと。いわゆるオカルト事象も他分野の視点からこぼれ落ちやすい領域であり、そういう意味では民俗学がオカルトを研究する意義は充分に認められると思うのですが、その方面での学術的なオカルト研究は多くないというのが現状です。

 しかし民俗学は、何かにつけてオカルトと結びつけられやすいのもまた事実。そして私も、オカルトチックな民俗系フィクション作品が好きで未だに読んだりしているものですが、民俗学に対して私に似たような興味を持っている方には、本論考はストレートに突き刺さるのではないでしょうか。全国の「民俗学ファン」には、是非ともお勧めしたい論考だと思います。

 最近でもTwitterでたびたび民俗学に関するツイートが話題になるところから見ると、民俗学に対する世間的な関心は決して低くないように思います。ただそうした一般的な民俗学のイメージと、専門的な民俗学とはどんどん乖離が進んでいっているように感じます。玉石混交の情報が錯乱する現在において、民俗学がいかに世間に対し発信できるかが課題となっているのかもしれません。

 

 さて最後に本書に話題を戻しますと、扱われる話題が豊富なのでオカルトファンの方ならばきっと琴線に触れる論考や記事があることと思います。

 しかしこれだけボリューミーな本であっても、オカルト事象の一角しか触れられていないというのが、オカルトの恐ろしいところ。ASIOSは他にもオカルトに関する著作を数多く出しているため、今後はASIOS作品にも手を出していきたく思います。こうして積読は際限なく増えていくのである

*1:ちなみに巻末の著者プロフィールには、「現在、連載稿『偽史源流行』の単行本化のため筆入れ中」とあります。もうすぐ出るのかなー楽しみだなー(棒読み)