河原に落ちていた日記帳

趣味や日々の暮らしについて、淡々と綴っていくだけのブログです。

【読書備忘録】1月に読んだ本ダイジェスト

 いつもは一冊の本のみを紹介する記事を書いているのですが、読んだ本をごく簡単にまとめて紹介してみるのも良いだろうと思ったので、試みに書いてみることにしました。

 本稿で紹介する本は、以下の通り。

 

風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

 

宮崎駿風の谷のナウシカ

 言わずと知れたアニメ映画監督、宮崎駿による漫画版のナウシカです。

 この漫画版ナウシカ、前々から気になってはいたんですよね。何せ金曜ロードショーで飽きるくらいに放映されている映画版とは、全く別のストーリーであるという話は有名ですので。ストーリーが別と言うか、映画版は漫画のほんの一部だけを一つの作品として映像化したものなのです。

 で、正月休みを使って漫画版を読んでみたのですが……なんかもう、ぶっ飛びました。

 確かに、映画版とは全く違う。しかし重要なのはそんなことではなく、作品全編を通して滲み出てくる強いメッセージ性、圧倒的な力に呆然としてしまいます。

 正直、人に気軽におススメできる漫画ではありません。全編を通じて、重く、容赦のないストーリー展開であり、おぞましく恐ろしいシーンも多くあります。人によってはトラウマものでしょう。

 しかしそれを含めて、本作は読者を強烈に惹きつけるパワーに溢れています。

 最初こそ、映画のように「自然と人間の共生」といったテーマが出ていますが、段々と人間と差別、人間と宗教、人間と罪、といった哲学的・観念的なテーマが強くなっていき、一言では言い表せない重厚な世界観が織りなされていきます。

 登場キャラクターも魅力的な人物ばかりで、どんなキャラでも単純に善や悪と決めつけられない奥行きを持っています。それぞれのキャラが、自分なりに必死に生きようとあがき続け、それでも多くが悲劇を迎えていく様は、読んでいてやりきれない気持ちになります。

 そして、世界の真実を知ったナウシカが、人類の未来に対し最後に下した決断とは…。

 本作はまさに、宮崎監督が目いっぱい書きたいものを全力で書いた感じが表れています。それだけに、読んでいるうちにこちらの体力が吸い取られていくような感覚にもなりますが、「映画しか観たことない」という人に是非ともお勧めしたい、物凄いパワーに満ち満ちた作品だと思います。

 

 

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

 

森見登美彦『四畳半王国見聞録』

 わたくし最近、森見作品にハマっております。

 何が面白いのかと聞かれたら困るのですが、何かがすこぶる面白いのです。

 森見作品はどれも、リアリズムとはほど遠いハチャメチャな話ばかりで、読んでいてどれも「いやありえんわ」と呟くばかりです。

 しかし物語中で起きる状況の無茶苦茶さとは裏腹に、登場人物の言動や思考に限りない共感を覚えてしまうのは何故なのか。

 設定の荒唐無稽さと共存する、登場人物の妙な人間臭さ。この絶妙なバランスこそが、森見作品に共通する要素であり、また魅力だと思うのです。

 本作は四畳半を巡る腐れ大学生たちの青春を切り取った連作短編集で、つまりは森見氏お得意の阿呆学生青春小説です。短編同士はそれぞれ微妙な繋がりを持っており、また例のごとく氏のその他の作品とも共通する世界観を持っています。他作品の世界観とのリンクも、森見作品を読んでいて面白く思えるところです。

 本作で私が一番好きな作品が、「大日本凡人会」。ショボい超能力者たちによる、一人の女性を巡るドタバタ劇で、どうしようもなく阿呆でしょうもない超能力合戦が笑えます。

 しかしどれを読んでも爽やかな読了感を覚えてしまう辺り、森見氏の手腕の恐ろしさを感じてしまいます。

 

フタバスズキリュウ もうひとつの物語

フタバスズキリュウ もうひとつの物語

 

藤たまきフタバスズキリュウ もうひとつの物語』

 昭和43年(1968)、一人の高校生によって発見されたフタバスズキリュウ。その首長竜化石を研究し、学術的に新種と認定した一人の女性研究者の物語。

 本書は古生物学者の佐藤たまき氏自身による、自らの学者としての半生を綴った自伝的な著作です。

 何ともロマンチックな表紙に釣られて読んでみたのですが、中には佐藤氏が博士号取得以降も定職に就けず、ポストドクターとして研究施設を転々と渡り歩く様子が生々しく描かれており、そういう意味では非常にシビアな内容でもあります。

 文章は、暗くなりすぎない程度の軽めな調子で書かれているのですが、根無し草の研究者として活動せざるをえない佐藤氏の心労はいかほどのものだったでしょう。

 幸いにも佐藤氏は、現在大学の准教授として定職に就かれていますが、定職に就けない無数の研究者たちの行く末を思うと、暗澹とした気分にもなれます。

 とは言え本書はポスドク事情だけでなく、古生物の新種認定は如何にして行われるか、といった興味深い内容も書かれているので、恐竜ファンにもお勧めできる内容であると思います。ちなみに首長竜は、恐竜ではありません。

 

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

 

新潮45」編集部『凶悪 ある死刑囚の告発』

 2013年のサスペンス映画『凶悪』の原作となった、今は亡き雑誌『新潮45』の記者による渾身のルポルタージュです。

 話の発端は、元ヤクザの死刑囚が雑誌記者に、自らの余罪を打ち明けることから始まります。その話の中で、殺人を主導した「先生」と呼ばれる人物が告発され、しかもその男は何の罰も受けずに、娑婆で平穏に暮らしているというのです。

 記者はその告発に半信半疑ながら、取材を進めていくうちに驚愕の事実が明らかになっていく…

 といった感じの筋書きです。ノンフィクションものはたまに読んでみると、刺激的で面白い。

 ただ危険だなぁとも思うのは、こうした本って読んでいるうちにどうしても「世の中には社会を裏から動かしている悪者が存在する」という思考になってしまうことです。いやまぁ社会の裏側で生計を立てている人は少なくないと思いますが、その思考が高じていくとただの陰謀論に陥ってしまうため、そこは気を付けなければならないかなぁと。

 こういう本は読み物としてたまに読んでみるのは面白いのですが、高じていくとかえってデマに引っ掛かりやすくなる危険性もあるので、その点は心しておかないといけませんね。

 

新 もういちど読む 山川日本史

新 もういちど読む 山川日本史

 

五味文彦・鳥海靖編『新・もういちど読む山川日本史』

 普段民俗学についてあーだこーだ書いてるクセに、日本史オンチな私です。ごめんなさい。

 最近流石に情けなく思えてきたので、日本史についての本をちょいちょいと読んでみることにしています。てなわけで、手軽な通史として定評を得ている山川の「もういちど読む」シリーズをチョイス。最近改訂版の本書が出され、最新の研究動向も反映されているようです。

 内容としては、非常に堅実な歴史書です。まぁ教科書が元なので当たり前ですが、山川の日本史教科書は注釈などが細かすぎて読みづらい印象があったので、こうした読みやすい形での要約版が出ているのは嬉しいことです。

 それにしても歴史系の本を読んでいていつも思うのですが、歴史ファンの人って教科書の流れを全部押さえてるんですかね。そうだとするとすごいなぁ。私などは、歴史について勉強をやってもやっても頭から抜けていってしまうので、全く羨ましい限りです。

 もうね、人の名前が覚えられない。同じような名前の人多すぎるし。戦国時代とか、一体誰が何をやっているのやら。

 そんなわけで私は、歴史の中では宗教史や、村落の歴史などを読んでいる方が好きなのですが、残念ながら歴史学の中心的なテーマではないので、教科書でもそこまで扱いが大きくないのが悲しいところです。

 ところで歴史について何か喋るとき、どうしても着いて回るのが「政治と歴史観」という問題です。つい最近も、某作家さんによる某通史の決定版が出版されて話題になりましたが、「政治と歴史観」というのはどうしてこんなにガッチリと結びつくものなのでしょう。

 正直、私は「自虐史観」とやらも「皇国史観」とやらもどうでもいいので、とりあえず歴史について学びたいんじゃい、と言いたいのですが、残念ながら世間ではそう思わない人の方が多いようです。歴史と政治を結びつけて語るのって、私は無粋だとしか思えないんですが。

 しかし私が無粋と思おうがどうであろうと、人々は何らかの耳障りのいい歴史を読みたくなってしまうもののようです。山川の日本史は間違っていないとは私も言いませんが、一定の思想から歴史を読み解くのはつまらない結果にしかならないんじゃないかなぁと思う今日この頃です。

 

古代史講義 (ちくま新書)

古代史講義 (ちくま新書)

 

佐藤信編『古代史講義』

 そして、通史の一助として手に取ってみたのが本書。全15回の講義形式での論集であり、古代史に関する多様なテーマが、専門の研究者たちによって最新の学説を踏まえて論じられています。

 こういった新書のサイズで、内容の濃い一般向けの歴史本が読めるというのは、非常にありがたいことです。「教科書に書かれない歴史」と呼ばれるものの中には、「細かすぎて教科書には書けない」歴史も多く含まれていると思うのですが、本書は広範なテーマでそうした細かい歴史について押さえられています。

 常々思うのは、研究者ではないただの一般人は、専門の研究に触れる機会がどうしても少ないということ。一般人は普通、学術論文とか読みませんからね。

 なのでこうした一般書で詳細な歴史を描いてくれる学者が多く存在するというのは、非常に恵まれたことだと思います。

 これはただの個人的な希望ですが、民俗学でもこういう本が出てくれたら嬉しいナァと思うのですよ。専門の研究者たちが、民俗学の扱うそれぞれのテーマについて最新の学説を踏まえて論じる一般書が。

 無論、歴史学民俗学とは異質な学問なので、単純に真似をするのは無理でしょう。しかし民俗学の最新の潮流を紹介した一般書が、哀しいほどに少ないというのも事実だと思います。文庫本で民俗学関連の本はいっぱいありますが、「最新」の内容とは言えませんし。

 なので私の勝手な希望としては、新書サイズで民俗学者が本を出してほしい。できれば妖怪以外のテーマで。あと『近世史講義』が早く出てほしい。叶いますように。