河原に落ちていた日記帳

趣味や日々の暮らしについて、淡々と綴っていくだけのブログです。

【読書備忘録】2月に読んだ本ダイジェスト

 読んだ本の簡単な感想を書いてまとめてみようというムーブ。2月どころかもう3月も終わっちゃいましたが、まぁいいんだそんなことは。

 今回紹介するのは、以下の4冊です。

 

天皇即位と超古代史 「古史古伝」で読み解く王権論 (文芸社文庫)
 

 原田実『天皇即位と超古代史』

 もうじき今上天皇生前退位ということで、天皇に関する歴史をテーマとした本が次々と売り出されていますが、そうしたムーブメントの中でも「超古代史」という一風変わったアプローチで「天皇と歴史」の関係を紐解いたのが本書です(「天皇"の"歴史」ではないという部分がミソ)。

 その超古代史とは何かというと、乱暴に言えば「記紀とは別の独自の古代伝承が記された、近世~現代にかけて作られた偽書」となりましょうか。ただしこれは学術的な概念と言うよりは通俗的なオカルト用語であり、明確な線引きがある訳ではありません。

 著者の原田実氏は、『竹内文献』や『東日流外三郡誌』などといった「超古代史」と呼ばれる文献について、長年に渡り一般向けに紹介してきた方であり、本書は氏の最新刊となります。

 原田氏の前著も超古代史の紹介本であり、本書も似たコンセプトではありますが、本書では超古代史に描かれる天皇に着目して記述がなされており、前著と比べてより「超古代史」の内容について頁が割かれている印象があります。

 また前著では紹介されなかった『喚起泉達録』『甲斐古蹟考』などの文献も取り上げられており、何とあの木村鷹太郎の「新史学」についても詳しく紹介されています。随所で挟まれるコラムの内容も興味深い。

 前著と本書を併せて読むことで、「偽史」の持つ妖しい魅力をより深く味わうことができるでしょう。

 

神社本庁とは何かー「安倍政権の黒幕」と呼ばれて

神社本庁とは何かー「安倍政権の黒幕」と呼ばれて

 

小川寛大『神社本庁とは何か』

 日本は八百万の神々が鎮座する国であるとはよく言ったものですが、その神々を現在(一応)統括しているのが、神社本庁という宗教法人です。

 私も少し前まで誤解していましたが、神社本庁はお役所ではありません。二次大戦後に組織された、民間の宗教法人です。役所は宮内庁の方ですね。

 さて、神社という聖なる場所を統括する神社本庁ですが、近年にわかに話題に登ることが多くなっています。それもあまりいい話題ではなく、「政権の黒幕」などといったどうにもきな臭い話が実しやかに語られていたりします。

 神社本庁は、本当に政権を裏から操る闇の組織なのか? その辺りの実情を、客観的なデータを基に検証したのが本書となります。

 さてこの本、おどろおどろしい表紙で如何にも「トンデモ本」っぽさを漂わせていますが、内容は徹底的に現実的。他宗教にも増して厳しい神社の経営状況や、おさまらない内紛まで、神社という聖なる場所の俗っぽい実情が露わにされています。

 本書の主張を乱暴にまとめると、「神社本庁に政治の黒幕たれる力などない。政治活動を熱心にやっている暇があるなら、もう少し全国の神社を維持する取り組みに力を入れるべきだ」ということになるでしょうか。

 所詮は神社も人間が集まった組織で運営されている施設ですから、色々とグダグダな運営や内紛が起こってくるのも当然と言えば当然というもの。しかしそれを差し引いても、現在の神社本庁は妙な方向へ迷走している印象を受けてしまいます。

 常に歴史的変遷を繰り返してきたとは言え、神社は人々の連帯を様々な形で強めてきた場所ですから、できるだけ無くなってほしくはないものですが…お上が宗教的活動と特に関係のない政治運動に明け暮れている現状では、難しそうですね。

 神社本庁の活動や主張などについてもっと詳しく知りたい方は、藤生明『徹底検証 神社本庁』もおススメです。

 

宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF)

宇宙の戦士〔新訳版〕(ハヤカワ文庫SF)

 

ロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』

  2015年の新訳版を読みました。

 こちらの小説、あらすじ欄に「ロボットアニメの原点」などと書かれていたので、ガンダムみたいなロボットが異星人とバトルを繰り広げるストーリーを想像して読んでみたのですが、見事に予想が裏切られました。どちらかと言えば、悪い方向に。

 まず、バトル描写があまりないんですね。バトルよりも、宇宙で戦う軍人を志した主人公が、毎日のつらく厳しい訓練に明け暮れるというシーンが延々と続くのです。

 もちろんそれだけの話ではなく、主人公が軍人としての自覚に段々と目覚め、人間としても成長していくという物語ではあるのですが、ロボットドンパチバトルを勝手に期待していた私としてはいまいちピンと来ず。

 そんな訳でかなり困惑しながら読んでいたのですが、読了後にネットで色々調べてみて、やっと納得がいきました。この作品が書かれた時代がちょうど冷戦の真っ最中で、どうやらそうした時代的な背景が本作に底流する思想性に表れていたようです。

 SF作品は近未来を扱いながらも、実際には作品の書かれた時代の状況が反映されているというのはよくあること。本作もその例外ではないと言えましょうが、そうであるなら末尾にちゃんとした解説でも入れてほしかったですね。

 本書の末尾には解説ではなく、表紙のモビルスーツのデザインについての裏話が色々と書いてあるのですが、正直非常にどうでもよろしかったです。

 SFに限らず「古典」と呼ばれる小説には、その理解を助けるための解説がほしいものです。

 

兵農分離はあったのか (中世から近世へ)

兵農分離はあったのか (中世から近世へ)

 

平井上総『兵農分離はあったのか』

 日本の歴史が中世から近世へと展開していく際の特徴の一つとして、「兵農分離によって農民と侍が分かれた」ことは、最早常識として扱われています。

 しかし「兵農分離」や「士農工商」とはよく聞きますが、実際どのようにしてそうした状態になったのか? 具体的に史料上では、どのようにそれが裏付けられるのか? などと考えていくと、実際のところあまりよくイメージができません。

 本書は中世~近世の移行期の史料を丁寧に読み解いていくことで、「兵農分離」と呼ばれるものの実態に迫っていきます。

 挑発的な題名ではありますが、決して「兵農分離などなかった」と主張するような短絡的な本ではありません。史料を一つ一つ読んでいくことで、「兵農分離は政権によって明確に目指された訳ではなく、自然とそうした状態になっていった」という結論へと落とし込んでいきます。

 どうも中世と近世とは、明確な断絶があるイメージが強いのですが、意外とその連続性も強いのではないかと気づかされます。時代とは明確に分てるものではなく、徐々に移り変わっていくものなのでしょう。

 こうした教科書的でない「複雑な歴史」を実証的に明らかにするのも、歴史学の役割なのかなと思います。