河原に落ちていた日記帳

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【読書備忘録】『偽史と奇書が描くトンデモ日本史』(2017)

偽史と奇書が描くトンデモ日本史 (じっぴコンパクト新書)

偽史と奇書が描くトンデモ日本史 (じっぴコンパクト新書)

 

偽史」や「奇書」と呼ばれる文献の数々を解説した、新書サイズのコンパクトな本です。タイトルの通り「と学会」的なコンセプトと言えそうですが、私はと学会の本を読んだことがないのであまり下手な言及はしないでおきます。

 本書の監修は、偽史やオカルトに関する多くの著作で知られる原田実氏。ただ実際のところ、氏がどの程度本文の執筆に関与しているのかはよく分からないので、原田氏についてもここではあまり触れないでおこうと思います。そんなんばっかだな私。

〈内容紹介〉Amazonの商品紹介欄より引用
 東北に王朝が!?

東日流外三郡誌」、歴史小説に大活用された「武功夜話」など、学術的に認められていない史料たち。
 図らずもそうなってしまうものもあれば、意図的に作り出されたものもある。
 その描かれた内容は、しかし、読む者を壮大なロマンへと誘う。

偽史」「奇書」といわれる書物を「もう一つの日本史」として、それらが書かれた時代と、それらがもたらした影響を交えながらブックガイドのスタイルで紹介する。
 また、異説や仮説を展開した人びとなど歴史をめぐるできごとにもスポットをあてていく。
江戸しぐさの正体』の原田実氏監修。

 

 最初に述べた通り、本書は「偽史」や「奇書」と呼ばれる(本書がそう呼ぶ)様々な文献を解説したものですが、それも一つにつき基本見開き2ページに纏められているため、新書サイズの割りに紹介されている文献はかなり多いです。とりあえず、実業之日本社公式HPから目次を引っ張ってみましょう。

第一章 超古代史(古史古伝
竹内文書富士宮下文書/上記/秀真伝/九鬼文書/物部文書/先代旧事本紀天照大神本地/契丹古伝/東日流外三郡誌
・コラム:歴史教科書の改定を余儀なくされた、旧石器発掘ねつ造スキャンダル事件

第二章 飛鳥時代から平安時代
日本國未来記/南淵書/金剛峯寺建立修行縁起/玉造小町子壮衰書/常盤御前鞍馬破/浦島子伝
・コラム:九州説と畿内説が有力視されているが、現在も解明できない邪馬台国の所在地

第三章 鎌倉時代から戦国時代
成吉思汗ハ源義経成/弁慶物語/上嶋家文書/椿井文書/応仁記/陽軍鑑/越後軍記/武功夜話
・コラム:最新の研究成果によって変更や削除が続く、教科書に掲載された偉人たちの肖像画

第四章 安土桃山時代から江戸時代
川角太閤記/史疑 徳川家康事蹟/会津陣物語/真田三代記/山田仁左衛門渡唐録/夷一揆興廃記/元禄世間咄風聞集/中山夢物語/南方録
・コラム:凧揚げ合戦の起源はどこから来たのか?『浜松城記』をめぐる真偽論争

第五章 まだまだある! 社会に影響を与えた奇書
慶安御触書/仙境異聞/中山文庫/霊界物語日月神示/サンカ社会の研究/田中上奏文江戸しぐさ/東方見聞録
・コラム:「官製の歴史は必ずしも真実を伝えていない」異端の歴史家・八切止夫が目指したもの

 私個人の感想を簡潔に申しますと、全体的にただひたすら物足りない

 文献の解説文がほぼ全て見開き2ページで纏められているため、個々の文献の掘り下げが簡潔すぎるくらいに簡潔にならざるを得ず、読んでいて「もっと深いとこ来いオラオラオラ」という感情が湧き立つこと請け合いです。

 あくまで本書は「偽史・奇書のブックガイド」という位置付けであり、学術書ではなく一般向けの読み物なので仕方ないと言えば仕方ないのですが、しかしそれとしても読後に残る消化不良感は一体何なのか。

 恐らくこれは、本書の偽史に対する立ち位置がいまいち明確でないということが、後味のすっきりしない一番の原因かと思います。

 例えば戦国史偽書として有名な『武功夜話』の紹介では、偽書とされる根拠を一通り述べた後で最後に「原本調査を行った研究者からは、『武功夜話』は有用な史料だという意見が出てきている〔p123〕」と付け足したり、近世期の偽文書『椿井文書』の紹介では、「しかし、偽文書であると明確な証拠があるわけでもなく、また、政隆を文書のコレクターとみなし、それらを偽りなく模写したと考える人もいる〔p105〕」と擁護意見を最後に組み込んでおり、書き手が否定派なのか肯定派なのかがよく分からない中途半端な書き方をしているのが、すんなりと読めない要因かと思うのです。

 史料価値について専門家の間でも意見が分かれている文献に関しては、否定派・肯定派の両論を併記しておくという姿勢自体は、否定すべきところではないでしょう。しかしたったの見開き2ページという限られたスペースにおいて、両論併記の姿勢を完遂するのは無理があったと言わざるを得ません。

 とりあえずは書名のコンセプトに従って、偽史否定派としての立場を固持するか、あるいはいっそのこと偽史全てを肯定する内容に傾いた方が、読み物としては面白くなったのではないか。そんなことを読みながら考えていました。

 一方で「奇書」と呼ばれる文献の紹介は、要領よく解説が纏められており興味深く読めましたが、奇書まで「トンデモ日本史」と称してしまうのはどうかとも思ってしまい、そういった点でも書き手の立ち位置の掴めない印象を受けます。*1

 ちなみに本書と似たコンセプトの書籍として、佐伯修氏による『偽史と奇書の日本史』という著作を過去に読んだことがあるのですが、そちらは偽史をあくまで「偽りの歴史」として見る立場を貫いていたため、比較するとこちらの方が読後感がすっきりした印象です。

偽史と奇書の日本史

偽史と奇書の日本史

 

 まとめると、偽史についての関連書を多く読んだ人にとっては、本書は決して満足できる内容ではないでしょう。ただし偽史に興味を持っており、まずは簡単な紹介から入っていきたいという方には、おススメできる本……なのかなぁ?

 むしろ私は、上の『偽史と奇書の日本史』こそが偽史(奇書)ビギナーに最適の本であると思っています。本書と比べると値段は張ってしまいますが、偽史の内容紹介は勿論のこと、原文はどれにあたればいいのかということもちゃんと明記されているため、偽史(奇書)入門編としてはこちらがより適当だと言えるでしょう。値段さえ目をつむれば。

*1:そもそも偽史には「奇書」としての要素が強く含まれているため、両者を明確に分けることはできないとは思いますが……