河原に落ちていた日記帳

趣味や日々の暮らしについて、淡々と綴っていくだけのブログです。

【読書備忘録】𠮷田司雄編『オカルトの惑星』(2009)

オカルトの惑星―1980年代、もう一つの世界地図

オカルトの惑星―1980年代、もう一つの世界地図

 

 未確認飛行物体、未確認生物、超古代史、精神世界……

 一般に「オカルト」と呼称されるものは様々に存在しますが、いずれも「科学的に存在が証明できない」という点が共通項となります。

 そのためオカルトの科学的な研究となるとどうしても否定論へと陥りがちですが、ここで視点を変え、オカルトを一種の「思想」または「文化」として捉えたとき、一体どういった現代史が見えてくるのか。

 本書はオカルトに関する様々なトピックを取り上げ、時代とオカルトがどのように関わり合いながら展開していったのかを分析した論考集です。

〈内容紹介〉Amazon商品紹介欄より引用
 UFO、宇宙人、ネッシー、秘境、ニューエイジ、超古代史論争、土偶=宇宙人説…。80年代、圧倒的な経済成長を背景にオカルトはテレビや雑誌などのメディアに取り上げられ、人々の心を引き付けていた。それらブームを具体的に取り上げながら、怪異現象の魅力を存分に描く。

 

 本書は一柳廣孝氏らによって発足した研究プロジェクト、「オカルト研究会」の中での議論を通じて編纂された論集であり、一柳編『オカルトの帝国』の続編となっています。

オカルトの帝国―1970年代の日本を読む

オカルトの帝国―1970年代の日本を読む

 

 私はこの『帝国』の方は過去に読んだことがあるのですが、『惑星』は長いこと読むことが叶いませんでした。現在既に絶版となっているのに加え、何故か最寄りの図書館などでも全く見かけなかったからです。

 そこで図書館にリクエストして他館から貸し出してもらおうとしたところ、リクエストから3ヵ月経ってようやく2つ隣の県の図書館から本書が届きました。あまり流通しなかったのでしょうか?

 何はともあれやっと読むことのできた本書の目次は、以下の通りになっております。

はじめに(吉田司雄

第1部 オカルトの水脈―一九六〇年代から八〇年代へ
第1章 美しい地球の〈秘境〉―〈オカルト〉の揺籃としての一九六〇年代〈秘境〉ブーム(飯倉義之)
第2章 オカルト・ジャパンの分水嶺―純粋学問としての人類学からの決別(金子毅)
第3章 邪馬台国と超古代史(原田実)

第2部 地球の午後―一九八〇年代オカルトの地平
第4章 デニケン・ブームと遮光器土偶=宇宙人説(橋本順光)
第5章 シャンバラへの旅―八〇年代日本の危うい夢(宮坂清)
第6章 台湾のオカルト事情(伊藤龍平)
第7章 バブルとUFO(谷口基)

第3部 日常化するオカルト―一九八〇年代から九〇年代へ
第8章 児童虐待とオカルト―一九八〇年代女性週刊誌における猟奇的虐待報道について(佐藤雅浩)
第9章 かくも永き神の不在に、セカイを語るということ(小林敦
第10章 カリフォルニアから吹く風―オカルトから「精神世界」へ(一柳廣孝

ネス湖への旅は終わらない―あとがきにかえて(吉田司雄

 現在でもたまにオカルト的な言説が話題になることはありますし、またサブカルチャー方面に取り入れられたオカルト事象も数多く、ある意味現在はオカルトが日常に溶け込んだ世界なのかもしれません。

 しかしそうしたオカルト事象は、どういった淵源を持つものなのか。また「オカルトブーム」と呼ばれる70~80年代という時代に、そのオカルト事象はメディアからどのように取り上げられていたのか。

 本書を読めば、そうしたオカルトの深淵の一端を覗き込むことができます。しかしあくまで、ほんの一端しか触れることしかできないのですから、オカルトというのは恐ろしい。「非科学的だ」などと単に馬鹿にしていると、その根強く根深い影響力やスケールに足元をすくわれること必至です。

 いくつか本書の論考を紹介しますと、冒頭の飯倉論文・金子論文では、かつて日本の人類学調査は大手マスコミをスポンサーとして、共同で「秘境」への調査を行っていたことが指摘されます。そうした独特の構造が、人類学的な「調査」とオカルト的な「冒険」という言説が結びつくこととなったことが明らかにされています。

 私は怪獣映画が好きなのですが、昔の作品を観ていると頻繁に、学者とマスコミが共同で南海島へ冒険しに行くシーンが出てくるんですよね(『モスラ』など)。なるほど、かつてのこういう事情が反映されているのだなぁと納得しました。

 また、オカルトと言えばかかせないのが、宇宙人とUFOという話題です。

 オカルト言説ではよく、古代の不可解な遺産などを「宇宙人がもたらしたオーパーツ」として解釈することが飽きるほどに繰り返されていますが、そうした「宇宙考古学」の担い手と日本における展開について論じているのが第4章・橋本論文です。

 第7章・谷口論文も宇宙人言説を論じたもので、80年代の日本で宇宙人にどのようなイメージが付与されていたのかを明らかにしています。そのイメージの一つとして、漫画などの大衆文化では、宇宙人を地球人のエロティックな恋人として描く作品も現れたと言います(『うる星やつら』など)。ここら辺の展開は、妖怪やモンスターに性的な擬人化を施した「モンスター娘」という近年の文化にも共通する傾向なのかも。

 また、いわゆる「スピリチュアル」というムーブメントは現在でも盛んですが、現在のスピリチュアルに直接繋がりそうな「精神世界」のブームについて論じたのが、第5章・宮坂論文と第10章・一柳論文です。この辺りは新宗教の隆盛とも繋がっていきそうで、宗教学とオカルトの入り混じりあう部分である気がします。

 他にも、日本のオカルトブームが台湾のオカルト言説に与えた影響を論じた伊藤論文や、お馴染み原田実氏による超古代史概論など、気になるトピックが盛りだくさんです。

 しかし本書で論じられるオカルト事象は、オカルトブームという巨大な氷山のほんの一角でしかありません。オカルトの思想史的・文化史的な研究に興味のある方は、是非とも『オカルトの帝国』などと併せて読まれることをお勧めします。