【読書備忘録】原田実『オカルト「超」入門』(2012)
「UFO研究家」や「超常現象研究家」を名乗っている人が、普段何をして生活の糧を得ているのかが気になる今日この頃です。絶対に査読論文とか書いてないと思う。
そんなことはともかく、今回はオカルトと称される文化の歴史を、広く浅く簡潔に纏めた本書に関する話題です。
著者は、偽史関連の話題では必ずと言っていいほど名前が言及される原田実氏。氏は元々オカルト系の出版社に勤めていたという経歴もあり、偽史に限らずオカルト全般への造詣の深さが本書を通じて窺えます。
〈内容紹介〉※Amazonの商品紹介欄より引用
UFO、超能力、オーパーツ、UMA、心霊……オカルトは教養だ!
本書は、オカルト史を形作った“オカルト重大事件”について、その成り立ちと背景を歴史研究家の視点から解説したものだ。オカルトは好き者の道楽や雑学だと思われがちだが、歴史家の視点で見ると全く違った顔を見せる。実はオカルト世界の事件や遺物・文献などは、その時代を反映したものばかりなのだ。例えば1950年代以降に発生したUFO目撃現象には、冷戦下での米国民の不安が色濃く影を落としている。そう、オカルトとは単純に「信じる・信じない」の不思議な現象ではなく、その時代の社会背景をも取り込んだ「時代の産物」なのだ。そして、オカルトの世界を覗き見ることで、この世界を「異なる視点」で読み解くことができるようになる。さあ、教養としてのオカルトの世界へ旅立とう。
では早速、本書の目次を引用してみましょう。
序文 オカルトが教養になるために
第1章 UFOと宇宙人
第2章 心霊と死後生存
第3章 超能力・超心理学
第4章 UMAと超地球人
第6章 フォーティアン現象
第7章 超科学
第8章 予言
第9章 陰謀論
終章 オカルトがわかれば世界がわかる
盛りだくさんですね。目次を見れば分かる通り、「オカルト」と総称される現象が一通り網羅されています。
実はワタクシ、オカルト好きを自称しておきながら『月刊ムー』さえ読んだことのない超越的にわかファンなので、オカルトに関する知識は水溜りのごとく浅いものです。その点本書では、個々のオカルト事象について要領よくその歴史や背景が纏められており、まことに楽しく読ませて頂きました。
一方で、「子どもの頃からオカルト雑誌を読み漁っていたぜ」というような筋金入りのオカルトファンの方にとっては、本書の内容は物足りなく感じることでしょう。あくまで書名の通り、本書はオカルト史の「超」入門書なのです。*1
また本書は、オカルト言説を面白おかしく嘲笑するようなノリでもないため、オカルトをトンデモネタとして笑い飛ばしたいという人にもあまり向いてはいません。それは序文で述べられている通り、本書はオカルトを通じて当時の社会を読み解いていくスタンスであるからです。
なぜなら、通俗オカルトに関する様々なテーマは、それが生まれた社会の文化や時代背景をよく反映しているからだ。(中略)個々の事例を見ていくなら、オカルトを通じて、それが語られた社会の文化や時代背景を考察することも可能になるだろう。ただ単に、事実かどうかを検証する行為なのではなく、検証した上で、ウソや間違いからも多くのことを得られるというスタンスだ。〔p7-8〕
そういった意味で、本書はオカルトの単純な真偽論争を超えた、オカルト「超」入門書でもあるのです。
今でも時折テレビ番組において軽いノリで扱われているハローバイバイなネタや、ネット上で実しやかに語られている陰謀論がデタラメだとは分かっていても、そうした言説はいつ頃どういった経緯で出現したのか。本書は混沌としたオカルト言説の歴史を、分かりやすい形で整理整頓した見取図だと言えます。
とは言えどんな文化であっても、細かく見ていくと一筋縄ではいかない歴史の糸が複雑に絡まっているもの。例えばUFOネタ一つを取っても、詳細に糸を手繰り寄せていくとそこにはややこしい神秘主義思想が重なり合っているものです*2。
繰り返しますが、本書はあくまで「超」入門書なのであり、その深みに潜るためには以下のような著書などにも目を通す必要があります。あまりにその深みに嵌りすぎて、「向こう側」へと一歩踏み出してしまわぬようお気を付けください。*3
さて本書は、今から6年前の著書ではありますが、現在でも相変わらず陰謀論や「江戸しぐさ」等のオカルト言説は湯水の如く湧き出し続けております。
そうしたオカルトにどっぷり嵌っている人の言動を辿ると、どうにも政治的に奇矯な発言を繰り返していることも多く、見ていて笑うに笑えなかったりします。
オカルトが偏った政治的信念を作り上げるのか、もしくは元々偏った考え方を持つ人がオカルトにもハマっていくのか、私にはどちらとも断言できませんが、そうしたオカルトと上手に向き合う方法は、本書の終章において原田氏が述べる通りです。
オカルトとのうまい付き合い方は、信奉でも否定でもないのだろう。やみくもに否定に走らず、しかし、いきなり既成のオカルト的解釈だけで満足せずに事実の確認を重視する態度、それを身につけることは、いわゆるオカルトに限らず巷にあふれる怪しげな話に対処する上でも応用が利くかもしれない。〔p253〕
私自身の思う所を述べると、オカルトに対して必要なのは「オカルトなんかに絶対騙されない」というような肩ひじ張った姿勢より、一度オカルトに引っかかってもそれを様々な面から見ていくことで、自らの考えを修正していくことのできる勇気なのではないでしょうか。