河原に落ちていた日記帳

趣味や日々の暮らしについて、淡々と綴っていくだけのブログです。

【読書備忘録】noho『となりの妖怪さん』第1巻(2018)

201となりの妖怪さん 1

となりの妖怪さん 1

 

 梅雨が明けてから連日の猛暑で、軽く夏バテ気味の私ですが、皆さんはどのようにお過ごしですか。

 さて今回、Twitterで知ったこちらの漫画を買って読んでみました。今の時期にぴったりな表紙イラストですね。

 

〈あらすじ〉Amazonの内容紹介欄より引用
「ウチの猫、猫又になるかもしれんくて……」

妖怪と人と神様が、ふつうに暮らす田舎町の日常は、
のんびりほのぼの、ときどき不思議。

ある夏、二十歳の長寿猫・ぶちおは、突如進化して猫又になる。
「自分が妖怪になった理由」を探して思い悩むぶちおは、
化け狐の百合に、「化け学」を習いはじめるが…。

お山を守る脱力系カラス天狗・ジローと少女むーちゃん。
「天狗の仕事」をこっそり覗き見していた むーちゃんは、
別人のようなジローの姿を目にする。

そんなとき、町には不吉を呼ぶ「鵺」が現れたと噂され――

 

 本書は、作者のnohoさんがTwitter上で掲載していた漫画が単行本として出版されたものです。私は単行本化以前から楽しませてもらっていたのですが、手に取って読める漫画になると知ったときは驚くとともに、「待ってました!」とも思ったものです。

 最近はインターネットが浸透したことにより、個人の投稿した作品が話題になり商品化、というルートで売り出される漫画や小説がすごく多くなりました。その嚆矢は2004年の『電車男』だったように思うのですが、当時はそのことがかなり大きく報道されていたように記憶しています。
 その頃と比べると「ネット発」作品が日常化した現在は、隔世の感があります。

 話を漫画に戻しますと、人間と妖怪が共存する世界を描いた作品というものが、私は好きなのです。

 いわゆる「妖怪もの」と言いますと、大きく2つのタイプに分かれるのではないかと私は考えています。
 一つは、妖怪と干渉できる特殊な能力を持つ主人公が、妖怪がらみの事件と関わっていくという話。もう一つが、人間と妖怪が共存する世界における日常や、その中での様々な出来事について描く話。
 本作『となりの妖怪さん』は、その題名からも窺える通り、典型的な後者のタイプの妖怪ものと言えます。

 私がそうした作品で面白いと思うのは、人間と妖怪(広く言えば「人間以外」)との境界線が非常に曖昧になっているという点です。妖怪たちは人間とは異なる容姿や特殊な能力を持ちながら、人間と当たり前に交流し、人間と同じように笑い、泣きます。

 しかし鶴の恩返しなどの「異類婚姻譚」が表すように、かつて人々は人間と人外との間に明確な断絶を設けていました。鶴や天女など異類の妻は夫の下を去り、猿や河童など異類の夫は、妻に尽くしたあげく妻の計略によって殺されます。一旦結ばれたとしても、幸福な結末を語る話はほぼ存在しません。
 人間は、人以外のものと結ばれることは許されなかったのです。*1

 現在でも人間と妖怪との報われない恋を描く作品はありますが、一方で本作のように人間と妖怪が普通に恋に落ちる作品も少なからず存在します。登場キャラの中にはヴァンパイアと人間とのハーフや、送りイタチと人間とのハーフも存在するため、人間と妖怪が普通に結婚することもあるということも暗に示されています。

 無論、妖怪とは人間の想像力による産物ですのでフィクション上にしか登場しませんが、虚構の上であっても、どういった経緯で人間と妖怪との差異は意識されなくなっていったのか。
 最近になって「妖怪もの」に触れ始めた私ですが、そうした疑問を念頭に置きながらもっと色々な妖怪ものを読んでいくのも面白いかな、と考えています。

 

 と言った感じで理屈っぽいことをだらだらと書いてしまいましたが、そんなことを考えずに読んでも『となりの妖怪さん』は面白いです。

 魅力的で素敵な妖怪たちの存在もさることながら*2、妖怪と現代社会の組み合わせ方も面白い。YouTubeに猫又変化の様子をアップしたら再生数が伸びるんでしょうか。

 また、民俗的な伝承のアレンジの仕方も巧みです。漫画序盤にはお盆行事の様子が描かれているのですが、その不思議で幻想的な、なのに日常的な光景が印象的でした。あと「おしょろ様」が非常に可愛い。
 伝承のアレンジに関しては、妖怪ものと呼ばれるジャンルにおける作者の腕の見せ所と個人的には考えているので、その辺りをしっかり描かれているのが好印象でした。

 1巻ではぶちおの自分探しや、蛇の呪い関わる物語に主眼が置かれていますが、まだむーちゃんの父親の行方や河童少女の恋の行方など、様々な気になる展開が残っています。

 次巻が出るときが楽しみです。

 

〈おまけ〉

 作者のnohoさんのTwitterアカウントには、登場キャラたちの設定資料が投稿されています。登場キャラたちの本編中には描かれてない一面も窺うことができるので、気になる人は遡ってみてはいかがでしょう。

 また当記事を書いた後で気づいたのですが、nohoさんのインタビュー記事もありました。連載のかなり初期から書籍化の話が出ていたのですね。

*1:遠野物語』には河童の子を産んだ娘の話が収録されていますが、これは特定の家に対し負の印象を語る噂話としての性格が強いように思います。

*2:個人的にはべとべとさん推しです。