河原に落ちていた日記帳

趣味や日々の暮らしについて、淡々と綴っていくだけのブログです。

【読書備忘録】礫川全次『サンカと説教強盗』(1992)

サンカと説教強盗---闇と漂泊の民俗史 (河出文庫)

サンカと説教強盗---闇と漂泊の民俗史 (河出文庫)

 

 在野の立場で「歴史民俗学研究会」を立ち上げ、数々の異端的な学問の一端を紹介し続けている礫川全次氏。

 つい最近は『独学で歴史家になる方法』なる、そこら辺のビジネス書にありそうな胡散臭い題名の本を出版した礫川氏ですが、初期の氏による関心の対象の一つが「サンカ」でした。

 以前に氏の『サンカ学入門』を読んだことがあるのですが、本書は礫川氏による最初期の著作であり、同時に2000年代の「サンカ」研究ブームの奔りとなった本でもあります。

〈内容紹介〉批評社公式HPより引用
 大正末期から昭和初期にかけて「帝都」を震憾させた説教強盗。背後に見え隠れするサンカ。事件の全貌を克明に跡づけ、実像と虚像が同居し、原像までが交錯するサンカ(山窩)を三角寛のサンカ論を批判しつつ解明する。

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【読書備忘録】杉原たく哉『天狗はどこから来たか』(2007)

天狗はどこから来たか (あじあブックス)

天狗はどこから来たか (あじあブックス)

 

「妖怪」と呼称されるモノの中でも、一際知名度の高い「天狗」。

「天狗になる」などの慣用句もあり、恐らくその名前を知らないという人はいないのではないかと思うくらいには、日本で馴染み深い妖怪です。

 しかし有名な割には、その歴史には謎も多いのが天狗という妖怪の特徴でもあります。

「天狗」という語自体は『日本書紀』にも登場するくらいに由緒の古い語彙なのですが、その言葉が指し示すものは空を駆ける流星であり、現在イメージされる鼻高天狗や烏天狗とは似ても似つかないものでした。

 元々は天体現象を指す言葉だった「天狗」が、平安後期以降なぜ突然に人民を脅かす妖怪として跳梁跋扈するようになったのか。なぜ、仏教に仇なす存在として描かれるようになったのか。そもそも、「天狗」という言葉はなぜ「天の狗(いぬ)」なのか。

 長い間、謎とされてきた天狗イメージの源流を、「図像学」の立場から考察したのが本書となります。

〈内容紹介〉※大修館書店公式HPより引用

 天狗イメージの源流を探る!

 日本を代表する妖怪である天狗。
 しかし、その正体は多くの謎につつまれている。
 天狗はどのように誕生したのか?
 天狗の鼻はなぜ高いのか?
 そもそも、天狗とは何者か?
 図像学的アプローチにより、天狗誕生の謎を解く、天翔る者たちの文化史!

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【読書備忘録】原田実『オカルト「超」入門』(2012)

オカルト「超」入門 (星海社新書)

オカルト「超」入門 (星海社新書)

 

「UFO研究家」や「超常現象研究家」を名乗っている人が、普段何をして生活の糧を得ているのかが気になる今日この頃です。絶対に査読論文とか書いてないと思う。

 そんなことはともかく、今回はオカルトと称される文化の歴史を、広く浅く簡潔に纏めた本書に関する話題です。

 著者は、偽史関連の話題では必ずと言っていいほど名前が言及される原田実氏。氏は元々オカルト系の出版社に勤めていたという経歴もあり、偽史に限らずオカルト全般への造詣の深さが本書を通じて窺えます。

〈内容紹介〉Amazonの商品紹介欄より引用
 UFO、超能力、オーパーツUMA、心霊……オカルトは教養だ!
 本書は、オカルト史を形作った“オカルト重大事件”について、その成り立ちと背景を歴史研究家の視点から解説したものだ。オカルトは好き者の道楽や雑学だと思われがちだが、歴史家の視点で見ると全く違った顔を見せる。実はオカルト世界の事件や遺物・文献などは、その時代を反映したものばかりなのだ。例えば1950年代以降に発生したUFO目撃現象には、冷戦下での米国民の不安が色濃く影を落としている。そう、オカルトとは単純に「信じる・信じない」の不思議な現象ではなく、その時代の社会背景をも取り込んだ「時代の産物」なのだ。そして、オカルトの世界を覗き見ることで、この世界を「異なる視点」で読み解くことができるようになる。さあ、教養としてのオカルトの世界へ旅立とう。

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【読書備忘録】沖浦和光『幻の漂泊民・サンカ』(2001)

 

幻の漂泊民・サンカ (文春文庫)

幻の漂泊民・サンカ (文春文庫)

 

「サンカ」と呼ばれた人々の調査研究は、ほぼ在野の研究者に一任されているという現状があります。しかしその中で、近年アカデミズムの立場から発信されたほぼ唯一の「サンカ」研究書が、本書『幻の漂泊民・サンカ』です。

 本書はサンカ本としてはかなり有名であるようで、信頼できる情報を見極めるのが難しいサンカ本界隈においては、比較的堅実な研究書として定評を得ています。

 しかし本書は、私が以前に読んだ礫川全次氏の『サンカ学入門』にて、手頃なサンカ入門書として評価されつつも結構手厳しい批判が加えられていたのも事実。実際のところ本書の内容はどういったものなのか、とりあえず手に取って読んでみることにしました。

〈内容紹介〉Amazon商品紹介欄より引用
 近代文明社会に背を向け、〈管理〉〈所有〉〈定住〉とは無縁の「山の民・サンカ」はいかに発生し、日本史の地底に消えていったか。
 積年の虚構を解体し実像に迫る、白熱の民俗誌!
 一所不住、一畝不耕。山野河川で天幕暮し。竹細工や川魚漁を生業とし、'60年代に列島から姿を消した自由の民・サンカ。彼らは、原日本人の末裔なのか。中世から続く漂泊民なのか。
 従来の虚構を解体し、聖と賎、浄と穢から「日本文化」の基層を見据える沖浦民俗学の新たな成果。

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【読書備忘録】伊藤龍平『何かが後をついてくる 妖怪と身体感覚』(2018)

何かが後をついてくる

何かが後をついてくる

 

 学校からの帰り道、夕闇迫る薄暗がりの中、人気のない路地裏を一人で歩いていると、気付くと自分の足音に混じり、ぴた、ぴた、ぴた、ぴた、何かが後をついてくるような気配……

 誰しも身に覚えのあるこの不気味な気配(私は体験したことがありませんが)。実際には誰もいないのに「何かが後からついてくる」ような気配を感じるというような、日常の隙間にふと表れる得体の知れぬ違和感。

 本書はこうした身体感覚上の違和感と、妖怪伝承との関係に注目した、妖怪研究における最新の知見となります。

〈内容紹介〉青弓社公式HPより引用
 後ろに誰かいる気がする、何か音が聞こえる、誰もいないはずなのに気配を感じる……。

 妖怪は水木しげるによって視覚化され、いまではキャラクターとしていろいろなメディアで流通している。他方、夜道で背後に覚える違和感のように、聴覚や触覚、嗅覚などの感覚に作用する妖怪はあまり注目されてこなかった。

 日本や台湾の説話や伝承、口承文芸、「恐い話」をひもとき、耳や鼻、感触、気配などによって立ち現れる原初的で不定形な妖怪を浮き彫りにする。ビジュアル化される前の妖怪から闇への恐怖を思い出すことで、私たちの詩的想像力を取り戻す。

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【読書備忘録】礫川全次『サンカ学入門』(2003)

サンカ学入門 (サンカ学叢書)

サンカ学入門 (サンカ学叢書)

 

 木地屋マタギといったいわゆる「漂泊民」を対象とした民俗誌的研究は数多く存在しますが、その対象が「サンカ」となると急に信頼できる研究が激減するのはいかなる訳なのでしょうか。恐らくそれは、「サンカ」なる言葉には常にある種の胡散臭さが漂っているのが原因ではありますまいか。

 私自身、「サンカ」という存在自体は以前から知ってはいましたが、それについて書かれた本となるとどうにも如何わしい匂いを感じてしまい、ずっと敬遠していました。多分ネット上に散見されるオカルト的な「サンカ」像が、無意識の内に脳裏に刷り込まれていたからでしょう。

 しかし試しに手元にある『精選 日本民俗辞典』を手繰ってみると、意外や意外、ちゃんと「さんか」という単語が立項されているではありませんか。執筆者は石川純一郎、『河童の世界』が代表的な著作でしょうか。以下に石川氏による「さんか」の概要を抄出してみます。*1

さんか 定住せず、山川を舞台に竹細工ならびに川漁などを生業として生活をおくる漂泊民に対する一般的呼称。(中略)さんかは岩窟・土窟を住処とすることに基づいた命名らしいが、他に天幕を張ったり、小屋掛けをしたり、社寺の床下に宿ったりと地域や集団により居住形態が異なっていた。「山窩」という漢字は明治初期における警察吏の考案というのが定説になりつつある。無籍者は犯罪を犯しやすいということで、警察の取り締まり対象とされ、猟奇的な事件があると彼らの仕業と考えられた。

 以降は「さんか」とされた人々の生業などの解説が続き、学術的な辞書としてまずまず無難な叙述がなされているのですが、私が注目すべきと考えるのが以下の文章です。

一説には全国的な支配組織のもとに国ごとの組織があって統制を行い、独特の文字を有するなどともいわれているが実証性に乏しい。

 さりげなく流されていますが、これは要するに俗に流布した「サンカ」のイメージを、なるべく穏当な表現で否定したものでしょう。

「サンカ」という存在は、辞書に立項されているという事実から少なくとも民俗学において完全に無視されている訳ではないと思います。ただし辞書の記述でもわざわざ断りの文言を入れておく必要があるほど、幻想的な「サンカ」のイメージは一般に膾炙してしまっているのだと言えます。

 こうした「サンカ」イメージの創出に大きな役割を果たしたのが、小説家の三角寛による一連の仕事であった、というのは現在の通説になっています。

 オカルト業界では「ユダヤ陰謀論」のガワだけ取り替えた「サンカ陰謀論」や、偽書『上記』との関連による「サンカ古代民族説」などが取沙汰されているようですが、そうした偽史的なイメージを「サンカ」から取り払ったときに見えてくるものは何なのか。

 そんなことを考えたく思い、とりあえず手始めに内容が無難そうな本書を読んでみることにしました。

〈内容紹介〉Amazonの商品紹介欄より引用
「サンカ」とは、日本に存在していた“漂泊民”である。「サンカ」につきまとうイメージは、ある時は古代からの伝承を伝え、独特の「サンカ文字(神代文字)」を使う一群の人々であり、ある時は山野を疾駆する漂泊の民であり、また、ある時は警察を出し抜く犯罪者集団…、など様々だ。しかし、近代以前からの「制外の民」としての「サンカ」像には、さまざまな疑念がつきまとっている。柳田国男、鷹野弥三郎、荒井貢次郎、宮本常一から三角寛といった人々にいたる「サンカ」研究を網羅、解説。「サンカ」という言葉を初めて聞いた人から、「サンカって、どうもよく分からない…」という人まで、格好の入門書。

*1:福田アジオ他編 2006『精選 日本民俗辞典』吉川弘文館、p233

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【読書備忘録】篠原徹『民俗学断章』(2018)

民俗学断章

民俗学断章

 

 民俗学者であり、現在は琵琶湖博物館の館長を務める篠原徹氏による最新の著書です。

 表紙の写真は、日本のどこぞにある山村の風景……かと思いきや、表紙そでには「海南島・リー族の初保村全景」というキャプションが。

森林がよく残っているように見えるけれども実は樹木はすべてパラゴムであり、畑はキャッサバが作られている。典型的なプランテーションである」とのことであり、現代人が持つ「原日本」というイメージとはいかにあやふやなものかと思い知りました。

〈内容紹介〉社会評論社公式HPより引用
 引揚者二世のルーツに始まり、民俗学者として五十年余りの間をアジア、アフリカ、日本国内の小さな山村に滞在して集めた人と動植物の民俗をいま改めて考える。半生をかけた学術的蓄積を自ら再構成して見出すのは、現在の日本民俗学の抱える学問的問題点である。

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